研究分野

環境材料化学研究室では、今後必要となってくる固体材料を用いた環境・エネルギープロセスに関する研究を行っています。これまでの石油を中心とした資源エネルギー利用形態は様々な理由で転換期に来ています。私たちの研究室では天然ガスや自然エネルギーの利用促進のために以下の課題に取組んでいます。ここでは、現在取り組んでいる研究テーマや過去に行ってきた研究結果を紹介する。

1.エネルギーキャリア研究

温暖化抑制のための二酸化炭素排出削減のためには太陽光や風力などの自然エネルギーの活用を促進しなければならない。自然エネルギーは電力という質の高いエネルギーとして得られるが、電力は貯蔵できないエネルギーである。したがって、導入が進むにつれ電気エネルギーの需給ギャップに直面する。既に欧州では余剰電力対策が注目されている。私たちは余剰となる電力を一時的に水素という形にして貯蔵、輸送する方法を考え、水素エネルギー社会に向けた技術整備が必要と考えてきた。しかし、水素を液体貯蔵する場合は-253℃という極低温が必要となる、圧縮貯蔵する場合は70MPaという超高圧タンクが必要となる。そこで、水素を効率的に貯蔵・輸送できる液体の化学物質(水素キャリア)に変換して、効率的にエネルギー輸送や貯蔵できるエネルギー利用システムの実現を目指すこととした。私たちはエネルギーキャリア物質としてアンモニア、メタン、メタノール、ジメチルエーテルの4つに注目しており、これらの効率的な合成・分解方法の研究に着手している。

1-1. アンモニア合成

アンモニアは常温1MPaで液体になる物質であり貯蔵・輸送が容易である。水素密度が高いので、再生可能エネルギーを利用する際の水素キャリア物質として有効である。燃料として利用した後は窒素と水が排出されるだけであり、次世代の燃料として期待されている。一方、現在工業化されているハーバー・ボッシュ法によるアンモニア合成は、天然ガスを原料とした工業プロセスとして確立されているが、再生可能エネルギーを利用しようとすると、いろいろ不合理な点があり、新しいプロセスが必要であると考えられる。当研究室はで再生可能エネルギー利用のための新たなアンモニア合成プロセスの開発が必要と考えた。2014年10月からは里川が研究代表を務める研究チームによるアンモニア電解合成に関する研究課題がJSTのCREST研究「再生可能エネルギーからのエネルギーキャリアの製造とその利用のための革新的基盤技術の創出(研究総括:江口浩一先生)」に採択され、現在研究を行なっている。研究チームは東京大学の大友順一郎准教授、菊地隆司准教授、福岡大学の久保田純教授と4名でチームを組んで行なっており、各チームから様々な研究成果が出てきた。研究内容や成果については以下のリンクを参照されたい。

https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/research_area/ongoing/bunyah25-1.html

JST_1111077_14532050_2015_PYR  JST_1111077_14532050_2016_PYR JST_1111077_14532050_2017_PYR  JST_パネル_戦略_CREST里川T作成_修正版

  1. Int. J. Hydrogen Energy, 42 (50),  29745-29755 (2017).
  2. ECS Trans., 75 (42), 43-52 (2017).
  3. J. Ceram. Soc. Jpn., 125 (4), 252-256 (2017).

1-2. メタノール合成

メタノールは常温常圧で液体であり貯蔵・輸送が容易である。水素密度も高いので、再生可能エネルギーを利用する際の水素キャリア物質として有効な化合物である。一方、分子内に炭素を有することから、燃料として利用するとCO2を発生してしまう。当研究室ではメタノールは化学品原料として有効な物質であることから化学品原料の中核と捉え、再生可能エネルギー由来の水素と大気中に排出されるCO2を原料としてメタノールを合成する研究に取り組んでいる。これまでの成果の多くは研究論文としてすでに報告していることから以下の論文を参照されたい。

  1. ACS Catal., 8 (2018) 7809-7819.
  2. Catal. Commun., 113 (2018) 41-45.
  3. J. Phys. Chem. C, 122 (10) (2018) 5430–5442.
  4. J. Catal., 351, 107-118 (2017)

1-3. ジメチルエーテル合成

ジメチルエーテルはメタノールの脱水反応により生成する物質で、LPガスと物性が類似しているため内燃機関の燃料として期待されてきました。最近では水素含有量が多いことから水素キャリアとしても期待されています。また、化学品原料としても考えられ、ジメチルエーテルは燃料だけでなく化学品原料としても期待されます。当研究室では銅系触媒とゼオライトの複合触媒を用いてCO2水素化によりジメチルエーテルを1段で合成する研究を行なっています。2018年度には公益財団法人JKAの研究補助事業として研究を加速させていただきました。研究成果の概要に関しては以下のリンクをご覧ください。

2018_JKA_report

2.天然ガス有効利用に関する研究

早期に二酸化炭素排出削減する方法として、既存のエネルギー利用システムを新たな省エネルギーシステムに置き換えていく方法がある。天然ガスコージェネレーション(電熱併給)システムも二酸化炭素排出削減だけでなく、エネルギーセキュリティーの面でも優れた方法である。小型燃料電池を用いた家庭用燃料電池コージェネレーションシステムは「エネファーム」の名称で2009年より販売されている。既に2014年現在、累計10万台のエネファームが販売されているが、現在でもコストダウンや設置地域の拡大に向けた改良研究が多く行われている。研究室では、脱硫、水蒸気改質、CO除去プロセスに用いられる触媒を高性能化することでシステムのコスト削減や適用拡大に資する研究開発を展開している。

  1. J. Jpn. Petrol. Inst., 61 (5), 316-321 (2018).
  2. Fuel, 232, 485-494 (2018).
  3. Appl. Catal. A Gen., 557, 7-14 (2018).
  4. J. Jpn. Petrol. Inst., 61 (2), 80-86 (2018) .
  5. J. Jpn. Petrol. Inst., 60 (3), 137-145 (2017).
  6. Fuel Process. Technol., 152, 15-21 (2016).
  7. Catal. Sci. Technol., 6, 3713-3717 (2016).
  8. Appl. Catal. B: Environ., 174-175, 486-495 (2015).
  9. J. Jpn. Petrol. Inst., 58, 176-184 (2015).
  10. Fuel Process. Technol., 131, 117-124 (2015).
  11. Catal. Today232, 16-21 (2014).
  12. J. Power Sources264, 59-66 (2014).
  13. Fuel, 149, 219-224 (2014) .
  14. J. Jpn. Petrol. Inst., 57, 29-33 (2014) .
  15. Appl. Catal. B Environmental, 140-141, 258-264 (2013).
  16. Appl. Catal. A Generall, 452, 174-178 (2013).
  17. Appl. Catal. A General, 404, 149-154 (2011) .
  18. Chem. Lett., 39 (9), 972-973 (2010).
  19. Top. Catal., 53, 707-711 (2010).
  20. J. Jpn. Petrol. Inst., 53, 83-88 (2010).
  21. J. Phys. Chem. C, 111, 3480-3485 (2007).
  22. J. Phys. Chem. B, 110, 22570-22567 (2006).

3. 環境浄化に関する研究

環境浄化に関する研究は幅広い分野で行なっています。これまでに大気中の有害成分除去技術としてNOx還元触媒、VOC酸化触媒の開発に取り組みました。また、地下水中に存在するヒ素の吸着除去に関する課題や、土壌汚染の原因物質であるトリクロロエチレンなどの浄化技術についても取り組みました。さらに環境浄化用の光触媒に関する研究にも取り組んでいます。この研究分野は他研究室との共同研究が多いです。

  1. RSC Adv., 7, 55819-55829 (2017).
  2. Appl. Catal. A: Gen., 507, 56-64 (2015).
  3. Catal Today, 241-A, 2-7 (2015).
  4. Clay Sci., 16(3), 89-93 (2012).
  5. Appl. Clay Sci., 70, 74-78 (2012).
  6. Int. J. Environmental Issues, 12(2/3/4), 204-213 (2012).
  7. 化学工学論文集,38(5), 312-317 (2012).
  8. J. Chem. Eng. Jpn., 44, 662-667 (2011).
  9. J. Ecotechnology Res., 15(3-4), 85-89 (2010).
  10. Appl. Clay Sci., 48, 455-459 (2010).
  11. J. Chem. Eng. Jpn., 42, s23-28 (2009).
  12. J. Hazardous mater., 162, 440-447 (2009).
  13. J. Hazardous mater., 162, 204-211 (2009).
  14. J. Colloid Interface Sci., 319, 53-62 (2008).
  15. 化学工学論文集,34(2), 309-312 (2008).
  16. Int. J. Chem. Reactor Eng., 6, A15 (2008).
  17. Chem. Eng. Sci.62, 5335-5337 (2007).

4.多孔質材料合成に関する研究

世界の資源・エネルギー事情は時々刻々と変化して、従来の石油精製、石油化学プロセスも再構必要になってきています。例えば中東におけるエタン脱水素反応によるエチレン製造と輸出により、ナフサ熱分解工程でのプロピレン増産が求められています。他にも多くの石油化学プロセスでエネルギー消費削減や副生廃棄物削減技術が求められています。これらのニーズにこたえるためには、新たな触媒素材が必要です。当研究室ではゼオライトやメソポーラス物質の合成研究により、これらのニーズに応えていけるように努力しています。

5.バイオマス利用に関する研究

再生可能資源としてバイオマスに注目して、食用に適さない植物油脂からのバイオディーゼル燃料製造技術やバイオエタノールの分離精製技術に取り組んだ。バイオマスは化石資源と異なり、比較的短時間に二酸化炭素を吸収して成長することから、バイオマス利用はカーボンニュートラルな技術といわれている。バイオマス資源の利用技術はディーゼル代替燃料製造、ガソリン代替燃料製造、化学品製造に大別される。北米では多くのガソリン燃料がエタノール混合ガソリン(E10)として販売されている。これはエタノールがバイオマス由来であることだけでなく、オクタン価向上剤としての役割を果たしているからである。しかし、自動車の燃焼法の研究から、エタノール混合燃料を同時に燃焼するのではなく、車両の走行状況にあわせてエタノールとガソリンを別々に燃焼させる方が、燃費が向上するという研究報告がある。私たちの研究室では燃料タンクに充填されたエタノール混合ガソリンを、使用時に車上で分離して、走行状況にあわせて使用できるようにするエタノールとガソリンの分離技術に取り組んだ。これまでにPVAによる膜分離とゼオライトによる吸着分離に関する研究成果を得ている。一方、バイオマス由来の液体燃料としてエタノールとともに注目されたのが脂肪酸メチルエステルである。この物質は植物油脂とメタノールを反応させて製造するが、物性が軽油に近いことから、バイオディーゼル燃料として利用されている。原料となる植物油脂は貴重な食用資源であり食糧と燃料の競合が問題視されてきたが、現在では非可食油脂や廃油を原料としたバイオディーゼル燃料が実用化されている。私たちの研究室ではバイオディーゼル燃料の効率的な製造方法として固体触媒を用いた反応プロセスの検討を行った。

  1. J. Jpn. Petrol. Inst., 57, 29-33 (2014) .
  2. Appl. Catal. A General411-412, 44-50 (2012).
  3. Ind. Eng. Chem. Res., 50(2), 1023-1027 (2011).
  4. J. Jpn. Petrol. Inst.51, 186-189 (2008).